リタイアの時期が早ければ早いほど保険が必要
FIREなどアーリーリタイアを目指す場合は、残りの人生の生活費を計算し、具体的な目標金額を設定することになるはずです。
しかし、人生は不確実で、不確実なものに備えるとなると余計に資産を形成する必要に迫られるため、残りの人生の期間が倍になれば金額もそのまま倍というわけにはいきません。
自由を手に入れるためにFIREを達成したにも関わらず、保険が不十分なため生活の不安を抱え心理的にはかえって不自由になり得ることを忘れてはいけないでしょう。
1億円という目標金額の設定は果たして妥当なのか
まずは、FIREムーブメントの牽引役となったピート・アデニー氏が実際に貯めた金額についてまとめましょう。
彼の場合は20万ドルの家と60万ドルの金融資産を所持した30歳時点でリタイアを決断し、利回り4%で運用することを想定してこの先食べるには困らないと判断しました。
どうやら25年間食べていけるだけのお金が基準のようです。
着目すべき点としては既に住宅ローンを払い終えている点であり、ほとんどの日本人は30歳どころから50歳になってもローン完済していないでしょう。
20万ドルの家が築何年くらいなのかは地域差もあるでしょうし修繕費用含めなんとも言えませんが、ともかく毎月の家賃がかからず住宅ローン返済に追われない点は大きいと言えます。
単純に足し算すると20万+60万=80万ドルとなりますが、分かりやすくするためにここでは1億円ということにしておきましょう。
これを4%の利回りで運用できれば悪くない収入であり贅沢しなければ食べていけそうですが、想定利回りが楽観的過ぎる印象も受けます。
過去何十年かのトレンドから判断すれば十分可能な利回りのようですが、今後同じように成長していくかは誰にもわかりません。
特に、日本で生活していく場合は投資から得られる果実が少ないと予想され、インフレ率も考慮した税引きの利回りは4%ではなく半分の2%のほうがこれからの実態には近いのではないでしょうか。
世界全体で見ればここ30年ほど経済成長しておりますが、日本については多少上下しながらも結局はほとんど成長していませんし。
1億円の2%というとわずか200万円です。
生活コストが少ない地域で暮らすなどの方法はあるでしょうが、年間200万円だと元本を取り崩すことになるはずです。
35歳でリアイアしたとして年金支給開始は65歳で30年間あり、1億円だけだと年金を貰えるようになるまで粘って老後のお小遣いをちょっと残すくらいで精一杯なのではないでしょうか。
1億円ではやや心もとない印象です。
未来になればなるほど不確実
アーリーリタイアは将来の生活を想像して行うわけですが、問題は将来の予測がそう簡単ではないことであり、しかも先になればなるほど予測困難になることです。
例えば、来月の日経平均株価の数値を正確に予想はできなくても、今の倍になったり半分になったりすることはそうそうないでしょう。
しかし、30年後の数値となると10倍になっててもおかしくありませんし10分の1になっててもおかしくありません。
投資の利回りがこれまでと同じ保証は全くありません。
税金についてもそうで、2019年終了時の消費税は8%か10%なのは確実ですが、30年後のの消費税がいくらになるかは誰にもわかりません。配当課税も現状の20.315%がずっと続くことは考えにくいでしょう。
また、年金についても将来減額される可能性が濃厚です。
自分や家族が予期せず病気になってお金が追加でかかる可能性もあります。
不確実なことを挙げていくとキリがありませんのでここらへんで止めておきますが、残された時間が長ければ長いほど不確実性に備える必要があります。
65歳でのリタイアだとこの先20年で起こることを想定しておけばほぼ十分ですが、45歳でリタイアするのであればこの先40年に備えなければなりません。
期間が倍長くなれば倍のお金を用意すれば大丈夫ということはなくて、不確定要素も増えるわけですからプラスαのお金も必要となるでしょう。
早期リタイアを目指せば目指すほど必要とされる金額が膨れ上がるわけです。
1億円では足りないケースもあり得るでしょう。
最大のリスクヘッジは人的資本をゼロにしないこと
人が持つ資産には人的資本と社会資本と金融資産の3つがあると橘玲氏は指摘しておりますが、FIREは他の同年代なら持ってるはずの人的資本と社会資本を当てにせず金融資産一本で生計を立てることに他なりません。
安定した資産運用には分散投資が重要という話はよく聞きますが、金融資産だけに依存するのはハイリスクなポートフォリオです。
債権の比率がどうとかそこで頑張ってもどうにもならない部分です。
社会資本をマネタイズするのは簡単なことではないので今回は無視しておくとして、人的資本をゼロにしないことが最大のリスクヘッジと言えるでしょう。
もし万が一将来の蓄えが怪しくなった場合、ウリになる知識やスキルが全く無いと最低賃金の労働者として働かなくてはなりませんし、高齢だとどこも雇ってくれないかもしれません。
平成終盤の好景気と人手不足から、その気になれば仕事はすぐに見つかる感覚は当たり前のように見えますが、高学歴の若者であってもまともに雇ってもらえない時代があったことは忘れてはいけません。
しかも、金融資産が激減する状況では企業の求人も絞られているでしょうからなおさら備えるべきです。
FIRE達成後も人的資本をそれなりに維持しようとなると短時間でもいいから働いたり勉強する必要があって、完全なリタイアは不可能で結局はセミリタイアに落ち着くことになります。
FIREを目指す場合、将来の不確実性に備えようとすればリタイア時期が遅れたりセミリタイアで妥協しなければならず、深く考えずスパッと引退してしまったら将来の不安に苦しんでリタイアで得られるはずの自由を享受できないというジレンマを抱えています。
将来を楽観視して保険をかけないのは自由ですが責任を取るのはあなた自身です。
予想が大きく外れるということは国自体も大きく変わっているでしょうからセーフティネットがその時どうなってるのかは誰にもわかりません。
>Right now, if you have any sort of income at all, it is probably enough to make you feel rich.
FIREを達成したピート・アデニー氏も自身のブログにて何らかの収入があったほうが豊かな気分になれると指摘しており、完全にリタイアすることには拘らなくてもいいのかもしれません。