マネジメントできない医師が生まれるのは必然
「今どきの研修医は……」と仕事にあまりコミットしない彼らについて愚痴りたくなる中高年の医師の方も中にはおられるのではないでしょうか。
とはいえ、一部の彼らが仕事熱心じゃないのは彼らの責任ではありません。
もちろん指導している医師たちの責任でもありません。
環境の変化によって生まれた必然なのです。
マネジメントの必要がなかった古き良き時代
「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」
日本海軍の山本五十六が残した名言ですが、人を動かすというのはなかなか難しいものです。
しかし、昔の医師はここまで骨を折らなくても若手を指導することができました。
研修医からすると上級医の立場は非常に魅力的であったため、モチベーションが高かったからです。
俺の背中について来い、の一言で済んだわけで、山本五十六風に表現すれば「やってみせ、させてみせ」だけで十分でした。
医学部入学者のレベルが低下していることのせいにする人もいるかもしれませんが的外れです。
偏差値の高さが医師としての優秀さに直結するとは限りませんが、少なくとも偏差値が低めの私立医大に関しては昔なら金さえ積めば入学できたのが現在は金を積んだ上に勉強もそれなりにできなければ入学できないレベルまで跳ね上がっております。
医師としての魅力というと、金銭的見返りや社会的尊敬など色々挙げられるでしょうが、今は30年前と比べると大幅に待遇が悪化しております。
もちろん昔は初期研修制度がなかったので最初はゴミ以下の扱いからスタートでしたが、数年我慢すれば現代よりも遥かに良い待遇が得られました。
今を耐えれば良い生活ができるという確信があったわけです。
それに対して今は夢も希望もありません。
厳密には全くないわけではありませんが、上級医を眺めてたら見つかるものではなく自分なりに頭を使って模索していかなければ見つかりません。
医療に対して自分なりの夢なり野心なりがあればやる気も上がるでしょうが、全ての研修医がそういうものを自発的に手に入れられるわけではありません。
そこに上級医と研修医のギャップが生じます。
自分たちの頃は何も言われなくても休まず仕事していたのにコイツらは一体何なんだと怒る気持ちはもっともですが、ガソリンがなければエンジンは動かないんですよね。
一部のブランド病院で働いている上級医たちは自分たちのマネジメント能力を誇るでしょうが、それは最初からガソリンが満タンの研修医ばかり集まるため上手くマネジメントできているように錯覚しているだけです。
マネジメントしたことのない人たち
昔なら若手医師をマネジメントする必要がなくただ自分たちが働いている背中を見せるだけで十分でしたが、これからの時代にはマネジメントが求められます。
じゃあ、具体的に何をすればよいのかを考えてみてください。
思い浮かばないのではないでしょうか。
しかし、思い浮かばないことのほうが当然ですから全く恥じる必要はありません。
これまでマネジメントに対する訓練を受けた人のほうが少数派で、マネジメントの必要がなかったためいきなりやれと言われても上手くいくわけがありません。
定年を間近に控えた世代の中にはアラフォー医師を見て俺たちは上手くマネジメントできてたのに奴らはだらしないと勘違いする人もいるでしょうが今までマネジメントする必要がなかっただけです。
ここまで話を続けてきましたが、それでも研修医がだらしないと言う人たちはいるでしょうが、果たして仕事をした時間のうち何%をマネジメントに費やしたのか疑問です。
医師はこれまでマネジメントの必要がなかったためマネジメントの仕事をしない前提で勤務時間が組まれており一般企業と比べるとマネジメントに費やす時間がかなり少ないのではないでしょうか。
もちろんこれ以上の時間は捻出できないでしょうから、現実的な落とし所としては研修医に羨ましいと思われるような医師を目指すくらいしかできないでしょう。
人によって医師としての理想像はバラバラなので無理なものは無理ですが他の仕事もあって忙しいので仕方ないでしょう。
「コイツみたいにはなりたくない」と研修医に思われてしまえばアウトです。
上手くマネジメントしたければその禁忌だけは避けてあとは神に祈るしかありませんね。