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医師は専門性の高いエキスパートではない

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https://newspicks.com/news/4144953/body/より

 

 

AIを始めとしたテクノロジーの進歩により失業する人が出るのではないかと危機感を持っている人は医療業界にもおられます。

 

これまで人間が行っていた診断や治療が置き換わって食いっぱぐれてしまうかもしれない、ということです。

 

しかし、医師の仕事の内容を一つ一つ見ていけば本当に高い専門性が求められる仕事というのはそう多くありません。

 

「神の手」と称される一部の外科医などは高い専門性が必要なことばかりしているかもしれませんが、ほとんどの人にとっては無縁な話です。

 

まずは現状を把握することで今後のキャリアプランニングの参考にもなるのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

それって本当に医師じゃないとダメなの?という仕事

 

医師の仕事は多岐にわたります。

 

非医療従事者は勘違いしがちですが、実際に患者と対面して診断したり治療したりすることは仕事のうちのごく一部です。

 

15時までの窓口業務が銀行の業務のごく一部に過ぎないのと同じようなものです。

 

例えば、診断の際には血液検査や画像検査が必要となることは多いですが、全ての検査がすぐに行えるわけではありません。

 

特に緊急でMRIを入れる際には、なぜその検査が緊急で必要となるのかをしかるべき部署に細々と説明して他の科の患者を差し置いて検査をねじ込まなければなりません。

 

やっているほうとしては面倒極まりない部門間の調整というお仕事ですが、患者の状態によっては欠かせない仕事です。

 

医師からの伝言を使えば医師免許を持たない人でもできる仕事ではありますが、実際にはそんなことはできません。

 

他にも検査待ちの患者が大勢いるのに伝言では緊急性が先方に伝わらず、結局割り込むには医師が直接動かなければなりません。

 

また、診断書やいわゆる特定疾患の書類など細々とした書類があり、これも医師が作成する必要があります。

 

病院によっては医師がゼロから作成する必要はなく、医療事務がある程度埋めてから医師が最終確認してサインすることもあります。

 

内容によっては医師免許がなくても正直なところ書けるものもありますが、法律上医師免許を持つ者しか作成してはいけないので医師がやっているわけです。

 

病名や治療の説明もややこしい病気じゃなければ高い専門性が必ずしも重要ではありません。

 

別に説明するだけなら看護師でも可能ですし、もっと言えば直接人が対面せずに動画流すだけでも問題ないケースは多いわけです。

 

特に麻酔科医が全身麻酔についての説明を患者に行うケースは型通りの説明で十分な場合が多いと言えます。

 

患者からの質問もだいたいは決まっているのでFAQ集を渡せば十分です。

 

そこから外れた場合だけ医師が直接患者と対面して説明すればこと足りるはずですが、実際はそうなっていません。

 

結局は医師免許を持った人間が直接動かなければならないんですよね。

 

治療においても専門性ではなく医師免許そのものが重要なケースは少なくありません。

 

入院中の患者に対してこれまで使っている薬を継続して処方するというのもその中の1つです。

 

初期研修医の重要な仕事の中に上級医が主治医となっている患者に対する処方がありますが、実際にやることはパソコンを操作して言われた通りにやるだけです。

 

既に何年も働いている看護師や薬剤師のほうが薬についてはわかっていますが、たとえ何も知らない新人だとしても医師免許があるからこそできる仕事なのです。

 

普通の末梢点滴なら看護師が取るが、化学療法の場合は医師じゃなければならない、など他にも色々と考えられます。

 

医師といっても医師としての専門性というより医師免許が重要となる仕事は多いわけです。

 

これが果たして高い専門性によって収入を得ていると言えるでしょうか。

 

 

人対人の場面でAIには限界がある

 

医療は結局人対人です。

 

さきほど触れた患者への説明ですが、こういう場面ではただ患者へ病名や治療法を説明しているわけではありません。

 

医師と患者が信頼関係を築いてこれから一緒に治療していこうという意味も込められているわけです。

 

全部説明を動画に任せてから、じゃあ質問なかったら早速始めるよ、で納得できる患者はいないはずです。

 

また、医療は生きた人を相手にしているので絶対というものはなく、結局は確率でしか物事を語ることはできません。

 

今後AIなどの技術がもっと進歩して診断ができるようになったとしても、結果の表現方法としては99%の確率で○○という病名です、というような形でしか表現できません。

 

医師として実際に臨床してるとごくわずかな確率のものにこだわる患者は多くいるわけで、そこを納得させて次に話をすすめることはAIには不可能です。

 

さらに、治療となるともっと話がややこしくなります。

 

どんな治療にも副作用や合併症はつきものですが、全部を羅列しているととんでもない量になってしまいます。

 

確率はごくわずかで仮に起こったとしても対処可能な有害事象であっても実際に文書で見てしまうと引いてしまうのが患者です。

 

生きた人間に対する治療は突き詰めると好手を繰り出し続けてそれで外れたら仕方ないという確率のゲームですが、そこを納得してくれる患者はそういません。

 

自分の経験上だと確率論的な考えをできない患者のほうがほとんどです。

 

そこをなんとか納得させるのはAIには不可能で、医師が患者を納得させられるのは信頼関係と医師免許の権威のおかげでしょう。

 

そして、最先端の医療をもってしても人はいずれ亡くなります。

 

人によって早く亡くなったり長生きしたりはしますが、いくら医療が進歩したところでこの運命からは逃れられません。

 

患者やその家族に対していわば「死刑宣告」をしなければならない場面もあるわけですが、これをAIに置き換えることは不可能です。

 

今後の医師という仕事についての展望

 

AIに対する危機感は世の中に溢れていますが、現時点でも医師の仕事は高い専門性が必要なものは多くありません。

 

医師免許という障壁だったり、人対人じゃないとできない仕事もあるので失業の心配はまずないでしょう。

 

他の業界でもこういった危機感は溢れているでしょうが、医療はまだ恵まれています。

 

テクノロジーに置かれがちな高齢者を相手にしていますから。

 

銀行の窓口でボタン1つ押して受付票を受け取って順番待ちすることすら怪しい人もいるわけで、そういう人にAIによる診断や治療を納得させるのはまず不可能です。

 

逆の場合は悲惨ですね。

 

トレードは機械でも構わないというコンセンサスがあるがため、ゴールドマンサックスのトレーダーは100分の1以下に減ってしまったわけですから。

 

 医療業界においてAIという黒船への危機感を煽る人は本質を見誤っていると言わざるを得ません。

 

確かにテクノロジーの進歩により、職人芸が求められる手術が今後なくなる可能性は非常に高いですが、医師という職業そのものがなくなることはありません。

 

となると、残るのは人柄などになってしまいますね。

 

ちなみに医療の場合むしろ心配すべきはAIより国がお金を配分してくれるかどうかです。

 

この蛇口を絞られると問答無用で医師は食いっぱぐれます。